変革推進チームの4つの役割

ー 現場の実践活動を活性化するペースメーカー機能

 
AI、5GIoT、ビッグデータ・・・。情報技術の著しい発展に伴い、デジタルトランスフォメーション(DX)に殆どの企業が取り組んでいます。ビジネスモデルの改革・顧客体験の刷新・業務プロセスの効率化などを目指した取り組みです。
 
顧客接点のあり方・仕事の進め方・企業カルチャー等を大きくシフトさせる組織変革が絡むプロジェクトが、多数・同時並行に走ります。これらを相互に連携させてビジョン実現を目指すので、変革推進のマネジメントは非常に重要になってきます。
 
それにあたり、日本企業の3割は「変革推進の専門部署」を設けています(出典:)。人材や予算の獲得・ITインフラへの投資・経営陣からのサポート等が容易になるメリットがあるからです。
 
この専門部署が主導して社内の各部署や外部パートナーと連携し、様々な変革活動を推進していくことになります。組織内の機運を活性化し、これまで以上の行動スピードを生み出し、成果志向の新しいカルチャーを植え付けるペースメーカー的な役割が期待されます。
 
専門部署としての変革推進チームとしては、以下の4つの機能を果たす必要があります。
 
1)変革マネジメント会議
 
2)現場の実行力の強化プログラム
 
3)実践活動のパイプライン管理
 
4)加速化へのチェンジマネジメント
 
 
 

 1)変革マネジメント会議

変革推進チームの大切な機能の一つ目は、週次で変革マネジメント会議を運営することです。変革実現に向けての日々の活動を組み立てる具体的な行動志向の会議体です。
 
個別のプロジェクトのスポンサー(後ろ盾である経営幹部)・プロジェクトリーダー・組織変革の最高責任者(チーフトランスフォメーションオフィサーなどの名称も増えつつある)などの参加者から構成されるものです。
 
会議のアジェンダは明確に定義されており、各プロジェクト活動の進捗状況を厳しくモニタリングします。
 
形式的・儀式的なプレゼンや予定調和の意見交換(もどき)は排除されたものです。次々と意思決定を行なっていくスピード重視の60〜90分で行われる会議で、組織変革責任者が議長役として引っ張ります。
 
感情論や抽象論ではなく、証拠(エビデンス)を元にした具体的なアクション志向で議論を進めます。複数の部門やプロジェクトにまたがる問題の利害調整を意思決定し、現場メンバーが直面している問題解決へのコンセンサスを形成するものです。
 
そして、プロジェクトリーダーへ次週以降の指針を示し、実践活動を加速するための後押しを行います。ここでは、上位下達の命令というスタイルではなく、問いかけ中心のコーチング的なコミュニケーションが理想的です。
 
変革推進チームは、この会議体の準備・運営・フォローの全ての局面で、実務的な作業を行います。組織変革の推進状況についてのエビデンス収集・各プロジェクトで発生した問題の事実確認・利害関係者間の意見対立の論点整理・複数の対策案の効果シミュレーションなどです。
 
現場に向けての支援機能だけでなく、トップマネジメントに向けてのサポート機能にもチャレンジします。上層部が組織変革の目標やマイルストーン(中間目標)の具体的な設定局面や、進捗が芳しくないプロジェクトスポンサーやリーダーへのテコ入れなどです。

   2)現場の実行力の強化プログラム

変革推進チームの大切な機能の二つ目は、現場の全員へ準拠すべき指針を提示し、各人がしっかりと理解し行動として発揮できるように強化プログラムを提供することです。
 
組織変革の実現に向けては、各人の行動変容が不可欠です。具体的な業務の進め方やスタイルについては現場ごとに違いがあっても、組織全体として目指す姿や新しい行動様式の考え方の部分は共通することが多いはずです。
 
それらは、これまでの組織カルチャーや行動様式とは大きく異なるところが特徴です。「変わりましょう」とメッセージを発信したところで、理解できない/行動に移せない/長続きしない・・などの事態が発生します。
 
それらに対して、組織的なアプローチで解決を図ります。個人任せで放置すると、変革プロセスのスピードが鈍るからです。変革のメッセージが組織全体に浸透するためのコミュニケーション施策・新しい発想やスタイルを学ぶトレーニング・自分の職場での実践プランを組み立てるワークショップなどの組み合わせとなります。
 
大枠のビジョンや戦略を理解したら、すぐに行動を繰り出すことができると軽く考えている人もいます。「実際に、自分は新戦略の実行を行なっている」と言うように誤解している人もいます。
 
具体的に数値化される評価基準を設定することがポイントです。そして、いきなり合格基準を達成できることはあり得ません。
 
実践して、目論見とのズレを確認して(設定した目標自体が違う場合もある)、次の行動をアップデートしていく・・。このサイクルを一人一人に定着するように、組織としてサポート(考察やノウハウ共有の場づくりなど)を提供します。
 
現場での疑問や悩みに対応してくれるヘルプデスクやコーチング提供なども視野に入ります。
 

 3)実践活動のパイプライン管理

変革推進チームの大切な機能の三つ目は、現場での実践活動の進捗状況や獲得成果を一元管理することです。
 
組織変革を実施中の組織では、数々の具体的な実践活動が考案されて動きます。様々な関係者やアクションの連続の積み重ねが、組織変革の全体成果へと積み上がります。
 
全ての活動を経済価値として金額評価できることが理想ではありますが、現実的には不可能なことです。社会全体の動向など、自分たちではコントロール出来ない要素も絡んできます。
 
であるからこそ、自分たちの組織変革がうまく進行しているのかどうかを、全体で共通の尺度でモニタリングする仕組みを共有化することが大切となります。自分でコントロール可能な活動項目をプランに組み込み、その実践度合いをトラッキングすることが中心です。
 
計画通りに進捗していないとすれば、活動を実施できない何らかの問題解決へと移ります。また、計画通りに進捗したのに最終的な事業成果に結びつかないとすれば、戦略実現に向けた具合的な活動の選択に不都合があった問題を解決することになります。
 
この実践活動パイプラインが、組織変革での「共通言語」として働きます。全体の状況を把握できるようになり、優先順位付けやリソースの再配分をスピード感を持って意思決定できます。
 

 4)加速化へのチェンジマネジメント

変革推進チームの大切な機能の四つ目は、変革実現への現場の機運を高めるコミュニケーションを主導することです。
 
様々な局面や方法を捉えて、変革実現に向かう社内カルチャーを強化します。週次の変革マネジメント会議中であったり、共有化されるレポートや社内通信であったり、現場での問題解決の打ち合わせ中であったり、社内イベントの場であったり・・様々な機会を活用します。
 
とにかく、社内の隅々までメッセージが浸透することに力を注ぎます。目指したい新しい行動様式の実践を後押しし、達成された好事例を共有することがキーポイントです。
 
経営トップや組織変革の最高責任者などが、現場の社員に直接に電話をかけたりして活動が上手くいったことを賞賛したりする演出もありえます。社内イベント的に表彰イベント(アワード)を実施することもあります。
 
経営幹部が直接に現場の第一線の社員の活動を取り上げ賞賛を送ることは、組織全体へのインパクトは大きいものです。特に、これまで賞賛することのなかった組織では、カルチャーが変わる大きなきっかけとなります。
 
中間管理職が行動変容できないことが、組織変革のボトルネックとなる会社も少なくありません。が、トップマネジメントの第一線社員へのアプローチに触れることで、行動変容に動き出す中間管理職も出てきます。
 

 最後に・・

 
変革推進チームの存在は、組織変革プロセスにリズム感を生み出します。変革活動にドラムビートを叩くようなものです。それによって、変革ビジョンの実現への機運を高め、ゴールまでの進捗状況を組織全体で共有化できます。
 
行動志向の雰囲気を高め、実際の行動を後押しし、結果を振り返るきっかけを出し、その学びを活かして次の行動をアップデートする・・。この変革プロセスを組織の新しいカルチャーとして定着することが、組織変革の成功のポイントとなります。